田中
オープンされてどうでした?
犬丸氏
当時は、妹と2人でお店をやっていたんですけど、もちろん最初は知り合いがたくさんいる街なので、ご祝儀でたくさん来て頂きました。
10月後半にお店をオープンして、クリスマス、冬の繁忙期までは良かったんですけど、夏になってきたら驚くぐらい売れなくなりまして。
何だかもうわけがわからなかったですね。何で売れないんだろうと・・。
秋の支払いが出来なくなるぐらい、夏になると売れなくなる。そんな状態が8年くらい続きました。そういう悶々とした日々が続いて、とても恥ずかしくて佐野シェフにも相談もできなくて、そんな中で結婚したんですけれど、もう本当にお店をたたむぐらい先が全然みえなかったです。
その時に佐野シェフから「出てこい」と言われまして、多分どこからか噂をきかれたんだと思います。
すごく説教されるんだろうなと思って、覚悟して行ったんですけど、僕の話をずーっとゆっくり聞いてもらって、
「何が悪いと思う?」と聞かれて「おまえお客様のこと考えてないだろ」と言われて、その時はじめて分かりました。
俺には腕があると思ってた。そう言えば接客なんてまともにやった事もなかった。全部妹まかせでした。
もう一回原点に戻らなければいけない。そう思って、チョコレートショップさんの若手の皆んなにまぜてもらって、厨房で研修させてもらいました。
チョコレートショップの若手のメンバーのひたむきな姿を見て、自分はどれだけ甘えていたのだろうと思って、地元に甘えて、友達に甘えて、親に甘えて、そして妻にまで甘えている。本当にこのままじゃいけないなと思いました。
それで何とかしようと、それでまた佐野シェフが色んなヒントをくれるんですよね。
「ああしろ、こうしろ」とは一切言われなくて、「こういうやり方もあるな」みたいな感じで、それを自分なりに解釈して、それで家族で話し合ってやってきた結果がここまでこれました。
今でもそうです。いつもいろんなヒントをくれます。本当にありがたいです。
田中
それでは、8年間はその厳しい状況で、そこからだんだんと開けてきたと。
犬丸氏
もう本当にスパァーッと開けました。
とにかく佐野シェフにはじめに言われたのは、「おまえの店の柱商品はなんだ」でした。何も言えないんですよね。
ラインナップは揃えているけど、柱って何?と、自分で。それで佐野シェフが紹介してくれたのが、オペラさんの濱田シェフだったんです。
濱田シェフは「柱商品と言うのは、お客様が、あの店にはあれがあると、友達の所に行くにしても、会社を回るにしても、これを持って行けば相手が喜んでくれる。それがお店に、まずはひとつ。ひとつはないとダメなんだよ。うちで言ったらシュークリームだよ」と教えてもらって、ああやっぱりケーキ屋さんは看板商品が必要なんだなと思いました。
それからもうシュークリームの試作、試作で相当やりました。カスタードクリームからシュー皮まで、そしてこれだってものになって、「これからはライブキッチンだよ、お客様の目の前で焼いて、焼き立てをどうですかって。」佐野シェフのお陰で「やってみろ」と言われて、当たりましたね。
僕も自然とお客様の前にいつも行って「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と言えるようになりました。昔チョコレートショップさんでやっていた当たり前のおもてなしが、本当に大事なんだなと、そこからです開けてきたのが。だから週1日10個くらいしか売れてなかったのが、100個売れるようになって、200個売れるようになって、今ではだいたい600個売れるようになりました。本当に嬉しいですね。
おもてなしの心が原点ですね。
田中
それで、現在のこの地に来られたのが、それから何年後ですか?
犬丸氏
5年前ですから、一念発起して2年後ですね。
田中
シュークリームが売れ出したのは旧店舗の頃で、それからだんだんとお客様が増えてきたんですね。
犬丸氏
そうですね。それで、こちらに来てからも色々ありました。
若手の子との考え方が違っていてですね。1人でやっていた時期もありました。商品も並びきれなくて、あの頃は妻にもかなり迷惑をかけてしまいました。
その時も佐野シェフに、ある程度は1人でも出来るだろうけど、やはり育てて自分と同じレベルまで育ててはじめて1人前じゃないかという話をして頂きました。
変な意地をはらずに、スタッフにもお客様にも分かりやすい自分でいないといけないんだなと、だから今はあまり頭を硬くせずに、こういう考え方もありかなと考えたり、若手と時には仕事と関係ない話もしながら仕事をしています。昔の自分じゃ考えられないですけどね。
でもそんな中でもお客様はたくさん足を運んでくださって。
田中
そういう師匠的な存在というのは大きいですよね。それでオープン、独立してからは何年たつんですか?
犬丸氏
15年ですね。オープンしたのが92年の10月17日で、こちらに来たのが2003年の7月11日です。
田中
では、シュークリームが売れ出して、今は順調に行っていると。
犬丸氏
そうですね。前は雨の時とかは絶対お客様も少なかったのですが、今はよく来て頂けるようになって、本当に嬉しいです。
本当にありがたいです!
だから、飯塚のセゾンさんが出来てまだ2、3年の頃に、業者さんから「筑豊にセゾンさんって言う、凄いお店があるんですよ。日本全国、北海道でも知っている」という話を聞いて、はじめは信じられなかったんですが、杉岡さんを紹介してもらって話をした時に、ああ、あるんだなぁと実感しました。だから、筑豊でも、田川でも、光るお店になれるんだなぁと。セゾンさんを、杉岡さんを見て、筑豊でも人口が少なくても関係ないんだなと、今、再認識してがんばっています。 |