吉野
責任感が半端ではないですね。
藤田氏
まあ、鍋島オーナーから拾ってもらったという気持がありましたし、性格的にきちっと最後までやりたいという気持が強かったからですね。
吉野
お店の規模は大きくなってきたのですか?
藤田氏
支店ができて菓子職人も20人近くになりました。そうなると私自身も責任が重くなるような部署の仕事をするようになりました。
20歳で店長となりひとつの店を任せられるようになりました。
吉野
20歳っていうのは若いですね。
藤田氏
今から考えると相当若いと思うんですが、お菓子って嗜好品ですから、年取った職人が作るよりも若い職人が、時代の空気を感じながら作ったほうが感覚的に良い場合もあります。ですから若くして店を任されてお菓子作りができたことは、今の店づくりにも役に立っています。
自分が洋菓子店を経営している今から思えばありがたい事だと思っています。
経営者が年を取ると店も年を取るんですが、それはある意味しょうがない事なんですが、常に若い人の感覚を持ちながらお菓子や店つくりを考えないといけないという事は常に頭の中にありますね。
吉野
常に若い感性でお菓子を作らないといけないという事ですか?
藤田氏
そうです。これだけ洋菓子が溢れている時代ですから、常に若い感性でお菓子を作っていかないといけないと思いますし、お客様にしても若いパティシエが作るほうが素敵に思えていただけるんではないかと思っています。
店でもできる限り若い人に任せるようにしています。
吉野
「アルチザン」には何年勤められたんですか?
藤田氏
8年間です。お菓子作りということに加えて店の運営や人の管理までするようになりましたんで、
あれよあれよという間に8年が経ってしまいました。
吉野
お菓子作りの全ての事を学ばれたんですか?
藤田氏
そうですね。「アルチザン」ではプチガトーや焼き菓子を始め、チョコレートやパイなども作っていましたので、全ての覚えるのは大変でしたが、自分が担当していない仕事まで覚えましたね。皆が帰った後に試作してました。17歳から25歳まで8年間はお菓子作りの日々でしたね。
お菓子一色でした。店の経営や運営なども学ぶ事もできたので、今考えると忙しい毎日でしたけど、本当にありがたかったですね。
吉野
それから、どうされたんですか?
藤田氏
九州の福岡に行きました。
吉野
どういう動機で九州に来られたんですか?
藤田氏
妻もパティシエールとして「アルチザン」に勤めていたんですが、その時に知り合って付き合うようになったんです。
実は妻が九州の福岡の出身だったんで、結婚を機に一度は福岡にでも行ってみようかなと・・・。
いづれは大阪に帰るつもりだったんですよ、まあ、軽い気持でした。
吉野
でも、長くなりましたね。しかもお店まで持つようになったんですね。
藤田氏
そうですね。流れというか・・・そんな感じですね。
吉野
九州に来てからはどこかにお勤めになったんですか?
藤田氏
はい、クイーンアリス、シモン、メゾンという3店舗に勤めました。
吉野
九州の洋菓子と関西の洋菓子は違いますか?
藤田氏
違いますね。「アルチザン」にいる時は、神戸のハイジやアンテノールなどに研修に行く機会があって神戸などの洗練されたお菓子に触れる機会が多かったんで「九州ってお菓子が単調だなぁ」と思ったことはありましたね。
吉野
やはり土地柄ですかねぇ。
藤田氏
全てではないと思うのですが、九州は、分かりやすいお菓子が多いのかなと思いました。
それは基本に忠実ということでしょうが・・・・少し残念な気持にもなりましたね。
でも、これが自分の店を開店したときに苦労する部分になったんです。
吉野
苦労というのはどういう事ですか?
藤田氏
福岡に来て3年経ち、28歳で自分の店を小郡にオープンさせたんです。でも、自分が作るお菓子が受け入れられない訳ですよ。
つまり、売れないんです。
吉野
九州に来られて3年間地元の洋菓子店で働いて、こちらお客様のお菓子の好みは理解されたんでしょう?
藤田氏
分かっていたつもりだったんですが、まだ自分が培ったお菓子作りへのこだわりがあったんです。やはり関西風のお菓子を作ってしまうんです。関西風というか神戸風の小さな洒落た・・・値段の高いお菓子ですね。
吉野
それでどうされたんですか?
藤田氏
悩みましたよ。半年間は、厳しかったですね・・・・。
妻も菓子職人でしたんで二人して色々話し合った結果、「ケーキは大きくして値段は安く、そして分かりやすい」をモットーにお菓子を変えていったんです。
吉野
それで、どうでした?
藤田氏
正解でした。少しづつ売れるようになりました。
吉野
神戸の洋菓子というと、どうしても洗練されたお洒落なスイーツという印象ですよね。やはり、洋菓子ってイメージが先行しますよね。
小郡という土地柄は、どうしてもお子様からご年配の方々まで安心して食べれるケーキっていう印象ですからね。
藤田氏
そうなんですよ。それが本当に分かりました。でも、菓子職人としてどうしてもひとつこだわりたい部分もあるんです。 |